節税の基本のき-経営セーフティ共済-
利益が出れば出るほど、気になるのが税金です。
自分自身がサラリーマンを辞め、安定収入を絶ってみて初めて気づく、雇われの安心感。
しかし、サラリーマンのメリットが安定収入だとすれば、経営者のメリットの大きな一つは「節税策」の豊富さです。
「リスクテイクして起業した経営者、個人事業主の方々は、その分しっかり節税をして資産形成してくださいね、退職金もないんだから」という国からのメッセージだと捉え、積極的に節税をしていきましょう。ということで、基本的な節税策についてご紹介していきます。
節税のきほんのき vol.1は、経営セーフティ共済です。
目次
概要
経営セーフティ共済は、正式名称「中小企業倒産防止共済制度」であり、政府100%出資の独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が提供する共済制度です。
制度の趣旨は、以下の通り。
「取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れでき、掛金は損金または必要経費に算入できる税制優遇も受けられます。」(中小機構HPから引用)制度の概要|経営セーフティ共済(中小機構) (smrj.go.jp)
この制度の表向きのメリットは、取引先が倒産した際に、連鎖倒産を防ぐため掛け金に応じた借り入れができるというものです。
が、実際には、節税メリットを目的に加入します。
対象者
法人もしくは個人事業主の対象者
法人〇、個人事業主〇。法人でも個人事業主でも加入できます。
ただし、以下の規模要件を満たす法人もしくは個人事業主のみとなります。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く。) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
組合
次のいずれかに該当する組合
- 企業組合、協業組合
- 共同生産、共同販売等の共同事業を行っている事業協同組合、事業協同小組合、商工組合
対象外
医療法人、農事組合法人、NPO法人、森林組合、農業協同組合、外国法人等は加入対象になりません。
また、形式面で要件を満たしていても、以下のいずれかに該当する場合は加入できません。
- 住所または主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況の把握が困難な場合
- 事業にかかわる経理内容が不明の場合
- すでに借入れを受けた共済金または一時貸付金の返済を怠っている場合
- 中小機構から返還請求を受けた共済金、一時貸付金、早期償還手当金、解約手当金の返還を怠っている場合
- 納付すべき所得税または法人税を滞納している場合
- 12か月分以上掛金の納付を怠ったため、または偽りその他不正の行為等のため、中小機構によって共済契約を解除され、解除された日から1年を経過していない場合
- 偽りその他不正の行為により共済金もしくは一時貸付金の借入れ、または早期償還手当金もしくは解約手当金の支給を受け、または受けようとした日から1年を経過していない場合
- 現に共済契約者となっている場合(重複加入はできません)
メリット
①無担保・無保証人で、掛金の10倍まで借入れ可能
共済金の借入れは、無担保・無保証人で受けられます。共済金貸付額の上限は「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、いずれか少ないほうの金額となります。また、取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になったときは、その事業者との取引の確認が済み次第、すぐに借り入れることができます。
借り入れ条件は、無担保、無保証、無利息です。しかし、借入額の10%が掛け金から控除されます。すなわち、100万円拠出していて、1,000万円借り入れた場合、将来の解約手当金はゼロになります。借入期間は借入金額に応じ5~7年で決められていますので、単純に割ると実質の年利は1.4~2%程度ということになります。
②掛金の税制優遇措置が受けられる
掛金月額は5,000円~20万円まで自由に選べ、増額・減額できます。また確定申告の際、掛金を損金(法人の場合)、または必要経費(個人事業主の場合)に算入できるので、節税効果があります。
③解約手当金が受けとれる
共済契約を解約した場合は、解約手当金を受け取れます。解約理由を問わず、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば、掛金全額が戻ります(12か月未満は掛け捨てとなります)。
④出口戦略で解約手当金受取時も実質非課税に
解約手当金を受け取った際は、雑収入になりますので、何もしなければ過去掛け金を損金計上して得た節税効果分を、全額納税することになってしまいます。
ここで、解約手当金を受け取る際に利益が出ないようにすることが重要です。
利益が出ないようにする方法としては、➊多額の経費を使用する期に解約する。➋赤字となる期に解約する。➌役員退職金を計上する期に解約する。という方法があります。
⑤倒産防止共済は再加入できる
倒産防止共済は、一旦解約しても引き続き加入条件を満たしていれば、翌月に再加入することも可能です。つまり、解約・加入を繰り返すことで、同様の節税効果が持続するということです。
したがって、上記④の➊~➌で記載した方法で解約と加入を繰り返すことで、最大800万円の節税を繰り返すことができます。
ひとり社長や家族経営のような場合は、役員の退職に合わせて解約をしていくことで、法人としては返戻金の利益と退職金の費用が相殺されます。また、退職金として受け取ることで、受け取った役員としても所得税が相当安く済みます。(勤続年数×40万円、20年超の分は70万円/年が控除され、1/2にした金額が所得となる。)20年勤務後であれば、所得税はかからずに退職金を受け取れます。
デメリット
①掛け金は、40か月(3年4か月)未満で解約した場合、100%は返ってこない。
掛け金の返戻額は、
- 解約の理由
- 掛け金
- 加入期間
に基づいて決まります。
解約手当金は、40ヶ月以上納めることで通常100%戻ってきます。ただし、滞納など機構解約(強制解約)の場合は返戻額は100%とはなりません。
掛金納付月数 | 任意解約 | みなし解約 | 機構解約 |
---|---|---|---|
1か月~11か月 | 0% | 0% | 0% |
12か月~23か月 | 80% | 85% | 75% |
24か月~29か月 | 85% | 90% | 80% |
30か月~35か月 | 90% | 95% | 85% |
36か月~39か月 | 95% | 100% | 90% |
40か月以上 | 100% | 100% | 95% |
みなし解約 → 法人の解散や分割、個人事業主の死亡によって解約とみなされた場合
機構解約 → 12ヶ月以上の掛金の滞納、貸付けの不正行為があった場合に運営元が行う解約
②個人事業主の場合は自分への退職金と相殺できない
法人の場合は、下記実例の通り退職金と同時期に解約することで、解約返戻金も実質的に課税なしで受け取れます。
しかし、個人事業主の場合は、自分自身への退職金というものは存在しません。従業員である家族などへの退職金と当てるか、一時的な経費(車の購入など)と当てることで、法人と同様に返戻金への課税を実質的に回避できます。
具体例
では上記のようなメリット、デメリットを最大限活かすため、どのような点を考慮すべきでしょうか。
掛け金
満額返戻金を受け取るためには、40か月加入する必要があります。一方で、掛け金拠出額は上限800万円となっています。
①月額5,000円が財布的に痛いという状況でなく、②利益が出ていて今後も利益が見込まれる、のであれば、加入を検討しましょう。
下記の表のとおり、共済金加入の場合と未加入の場合で、累計の税額に大きな差が出ます。8年累計で、約240万円の節税効果となります。
上述の通り、20年以上勤務後に退職金を受け取るのであれば、所得税はゼロになりますので、240万円がまるまる全体の節税効果となります。
法人の場合
法人の場合は、退職金と同時期に解約することで、解約返戻金も実質的に課税なしで受け取れます。
個人事業主の場合
しかし、個人事業主の場合は、自分自身への退職金というものは存在しません。従業員への退職金を計上する年度と当てるか(*青色専従者である場合は通常退職金を経費計上することはできませんのでご留意ください)、一時的な経費(車の購入など)と当てることで、法人と同様に返戻金への課税を実質的に回避できますが、無理に一時的な経費を作るのであれば本末転倒ですし、返戻金が丸々課税されてしまえば単に税金支払いを後ろ倒ししただけの結果となりますので、あまりメリットがあるとは言えませんね。むしろ返戻金受領年度の累進税率が上がるとむしろ累計税額が増えてしまいます。
小規模企業共済との違い
中小機構は、経営セーフティ共済のほかに、もう一つ「小規模企業共済」という共済制度も提供しています。
経営セーフティ共済は倒産防止のための制度である一方、小規模企業共済は小規模会社の役員や個人事業主など個人の退職金の位置づけの制度です。
2制度の比較は以下の通りです。
うまく併用することで、法人、個人ともに節税することが可能となります。
項目 | 経営セーフティ共済 | 小規模企業共済 |
---|---|---|
目的 | 連鎖倒産の防止のための掛け金拠出 | 小規模企業の役員、個人事業主の退職金の位置づけでの積み立て支援 |
加入名義 | 法人の場合:法人名義 個人事業主の場合:個人事業主名義 | 法人の場合:役員個人名義 個人事業主の場合:個人事業主名義 |
掛け金拠出月額 | 月5,000円~200,000円。年間累計2,400,000円まで (5,000円単位) | 月1,000円~70,000円まで。年間累計840,000円まで (1,000円単位) |
掛け金拠出累計総額 | 限度なし | 800万円まで |
掛け金の税務上の取扱い | 法人:全額損金 個人事業主:全額必要経費 | 全額加入者個人の所得控除 |
返戻金の税務上の取扱い | 法人:雑収入 個人事業主:収入 | 一時金で受け取る場合:退職所得 年金で受け取る場合:雑所得(公的年金) |
解約 | 加入期間が240ヶ月未満だと返戻額が元本割れ | 加入期間が40か月未満だと返戻額が元本割れ |
払い込みの一時停止 | 月額掛け金の40倍に達している場合は停止可能 | 被災や入院などにより半年または1年の間停止可能 |
その他の特徴 | 掛け金に応じた借入ができる | 掛け金の範囲内で一定額借り入れ可能 |
まとめ
事業が安定してきたら、経営セーフティ共済への加入をすぐに検討しましょう。
節税策は、様々な観点から総合的に判断する必要があります。
加入した場合のシミュレーションなど、ご相談をお受けいたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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