働きながら起業を考えている方へ

日本は起業率が5%で欧米の半分以下にとどまってきました。しかし、2018年の副業元年と呼ばれる政策転換により副業が推奨され始めました。

そのような環境変化に伴い、副業を始めたり、一念発起して起業することを検討している方も増えているのではないでしょうか。

実際に当事務所でも、働きながらWeb事業で独立起業することを検討している方からご相談を受けました。

今回はご相談を受けた実例を基に、起業を検討し始めた方が最初に気になるであろうポイントを会計専門家目線でご説明します。

目次

起業するにあたってまず把握すべき5点

1.起業の形態

起業する場合、形態はどのようなものがあるでしょうか。

個人事業主として開業(会社は設立しない)

個人事業として開業する場合、税務署への届け出が必要な程度で、特段必ず必要な開業費用はありません。

会社を設立する

起業と同時に法人を設立するケースです。一言に法人設立といっても、種類は多々あります。主な形態は、

  • 株式会社・・・もっとも一般的な会社形態。設立には最低20万円強かかります。
  • 合同会社・・・株式会社よりも安く、最低6万円程度で設立可能です。
  • 一般社団法人・・・会社と異なり、営利事業を前提としてはいない法人形態ですが、収益を得ていけないわけではありません。公益性を強調したいような事業(教育や育成関連の事業など)に好まれる傾向にあります。設立費用は最低6万円程度です。

どのような法人形態にするかの選択は、上記の通りのコストのほか、今後のビジョンにより判断します。具体的にはVC(ベンチャーキャピタル)などからの追加出資を受けたり、株式上場(IPO)を目指す計画がある場合には、株式会社を選択することになります。

また、個人事業で開業するか、法人を設立するかの判断は、基本的には最初から所得(利益)がそれなりに(500万円以上など)出そうかどうかというのが定量的な目安となります。その判断基準については、こちらの記事【個人事業を法人化する(法人成り)】をご参照ください。

2.資金調達

起業する際に、初期投資の資金が必要な業態の場合、どのように資金を捻出したらよいのかというのは最初の悩みどころかと思います。美容室や飲食店、整骨院などの開業にあたっては、開業費用としてまとまった資金が必要となります。

一般的な資金調達方法としては、

  • 融資
  • 株式発行
  • クラウドファンディング
  • 補助金

などがあり、どうしたらよいのか迷うかと思います。が、基本的には「日本政策金融公庫(公庫)から創業融資を受ける」の一択です。公庫は政府系金融機関であり、民間の金融機関よりも融資のハードルが低く低金利で融資を受けることができます。

公庫の融資商品は様々ありますが「新創業融資制度」のような無担保無保証で融資を受けられるものもあります。新創業融資制度|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)

3.社会保険はどうなる?

会社員の方の場合、会社として社会保険に加入しています。大きな会社の場合は健康保険組合で、それ以外の会社の場合は全国健康保険協会で入っているものと思います。

では、起業した場合はどうなるでしょうか。

個人事業主として起業する場合、国民健康保険と、国民年金に加入します。主婦の方と同じです。ただし、以下の方法も採り得ます。

  1. 国民健康保険組合に加入・・・文芸創作活動などをしている方が入れる文芸美術国民健康保険組合などに加入することもできます。ご自身の営む事業の関連団体で加入可能なものがあるかどうか、確認してみましょう。
  2. 家族の扶養に入る・・・起業後の年収によっては、会社員として健保に加入しているご家族の扶養となり、そこでまとめて社会保険に入ることも可能です。
  3. 会社員時代の健康保険を任意継続・・・退職後も2年間は継続加入できます。退職時の標準月額報酬に基づいた健康保険料で、上限キャップがあるため、国民健保よりも有利になる可能性もあります。ただし、所属中は折半だった保険料は全額自己負担になります。なお、厚生年金は任意継続できないため、国民健康保険に加入します。

会社を設立する場合、会社として全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入し、そこで健康保険及び厚生年金に加入します。自分で設定する報酬額に基づいて保険料が決められるため、社会保険料を意識して報酬を設定することも可能です。令和3年3月分~東京都の協会けんぽ保険料率

4.事業で利益が出なくてもかかってしまう税金は?

退職して起業することを考えている場合、退職後に出ていくおカネがどれくらいなのか、把握できていないと不安が残ります。興した事業で利益が出ているのであれば当然に税金を支払うことができますが、事業で利益が出なくても退職後にかかってしまう税金があります。

個人の住民税は、前年度の所得に基づいて、翌年の6月から支払いが開始します。従って、前年度会社員として稼いでいた方は、退職した後も不可避の支出となりますので支出として織り込んでおく必要があります。

また、法人を設立した場合、利益が出なくても「法人住民税の均等割」として最低でも7万円の税金の納税義務があります。

そのほか、固定資産税や自動車税など資産にかかる税金も、事業の状況などに関係なくかかります。

5.在職中に起業したらバレる?

在職中に起業を検討している方は、副業で事業を始める方や、退職前に起業手続きを済ませて退職後早期に軌道に乗せたいと考える方が多いです。もちろん、就業規則において副業が禁止されている会社も多いと思いますので、そのあたりは就業規則や会社の規定を確認しましょう。

そのうえで、もし副業が認められている場合でも、会社に知られたくはないという方もいるかと思います。

では在職中に事業を開始した場合、容易に会社にバレるものなのでしょうか。あくまでも、「副業禁止の方もうまく隠しましょう」という意図ではありません。

届け出書類から気づかれる?

個人事業主として起業する場合、必要な届け出は税務署への「開業届」です。そのほか状況に応じいくつか書類を提出しますが、いずれもひろく一般に開示されるような情報ではないため、在職先の会社としては知る方法はないでしょう。

会社を設立する場合はどうでしょう。会社を設立すると、法務局に様々な書類を提出する必要があり、会社の情報が「登記」されます。この登記の情報には代表者氏名と代表者住所も含まれています。登記情報は、法務局窓口などで取得できるほか、以下のサイトなどで誰でも閲覧することが可能です。従って、誰でも見れる情報として広く開示されているという点では、知られる可能性はゼロではありません。登記情報提供サービス (touki.or.jp)

ただ、「代表者氏名から検索する」というような検索方法はないため、通常はたどり着かないでしょう。

住民税額からバレる?

個人の所得に対しては、住民税が課税されます。前年度の所得を計算基礎として、翌年6月から納付が始まります。

会社員の方の住民税の納付方法は、各自が納付する「普通徴収」と、会社が給与天引きして代理納付する「特別徴収」があります。

「普通徴収」の場合は、会社は個人の住民税を見ることはありません。

一方「特別徴収」の場合は、会社宛てにお住いの自治体から住民税の「特別徴収納付税額決定通知書」が届きます。会社から住民税の額が記載された細長い紙が届くと思いますが、それがこれです。この書類からバレるケースは2つあります。

  • 無配慮な自治体では、給与以外の所得の蘭も会社が見れる状態で送られてきます。「事業所得」や「雑所得」があれば、「ん?」と思われる可能性はあります。
  • 給与以外の所得が隠して送られてきたとしても、住民税が異様に多ければ「ん?」と思われる可能性はあります。

このようなリスクを避けたいのであれば、確定申告の際に、確定申告書の第二表というページの、住民税の納付方法を選択する箇所で、「自分で納付」(すなわち普通徴収)を選択することで、会社に住民税の書類が届くことはありません。なぜ確定申告したのかと聞かれれば、「医療費控除をしたかったから」や、「ふるさと納税のワンストップ納税申請を出し忘れたから」、「ビットコインで少し儲けたから」など言い訳はいくらでも立ちます。

まとめ

当記事では起業を検討している方から実際に相談を受けた悩み事項を基に記載しました。もちろん、起業をするにあたり核になるのは事業戦略ですが、上記に記載したような経営管理面、とくにおカネの部分も疎かにしては経営は成り立ちません。

経営管理のポイントを理解しつつ、税理士などの外部者にある程度任せるという形が、起業当時は有用なのではないかと考えています。

起業前に、起業に向けてのご相談も承っておりますので、お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。