法人成りの手続 ~事業資産負債の承継方法~

個人事業主の方が事業を法人化すること、これを「法人成り」といいます。

個人事業のメリット・デメリットについては【個人事業を法人化する(法人成り)】にてご案内いたしました。

ここでは、法人成りする際の具体的な手続きについて記載していきます。

以下のような方におススメの記事です
・法人成りを考えている個人事業主の方
・法人成りの具体的な手続きについてより詳しく知りたい方

資産・負債の引継ぎ方法

個人事業として保有している資産や負債があります。法人成りをした場合には、当該資産及び負債は、精算や引継ぎなどをして承継させていく必要があります。

ただ、法人成りの時点で有している個人事業用資産をすべて承継させる必要はありません。損得などを見極めながら個別に判断することとなります。

資産や負債を承継する方法を検討すべき前提として、税法上の規定があります。税法上は、取引金額が適切な取引価格でない場合、適正な取引価額で取引されたと見做して課税されてしまう可能性があります。

たとえば、時価500(帳簿価額も500)の生産設備を無償で個人から法人に資産を譲渡してしまうと、個人としては「寄付」したものとして取り扱われ、ほとんど損金にすることができません。

一方、法人側では、500の設備を無償でもらったため、受贈益500が計上され、課税されてしまいます。実質的に個人事業主からご自身が設立した法人に既存の資産を引き継がせるだけにもかかわらず、税金が発生してしまうのです。

このように誤った方法で法人成りにかかる事業承継をして損をしないため、通常下記の①~③のような方法で承継します。

引継ぎ方法① - 売買処理

まず一つ目は、設立後法人との売買取引により所有権を移転する方法です。設立した会社に資産を売却します。

この方法が、最も簡易的な方法となります。

留意点は、取引価額は「時価」とすべき点です。前述の税法上の不利益を排除するため、取引は時価により取引価額を算定します。ここでいう「時価」とは、第三者間で通常取引される価額であり、例えば、その商品を自分自身が一般のお客様に対して販売する際の価額や、不動産なら近隣の不動産の売買取引実績などに基づいて算定されます。

買い取った法人側では、取得価額にて資産計上されるか、承継時の費用となります。

売却した個人事業主側では、売却により損益がでることになるため、個人の所得となります。具体的な方法は、後述します。

メリット

時価により売買処理するだけなので、最も簡便的な方法。

デメリット

①買取時に買い取り資金が必要。(→割賦払いとすれば一括で支払わない方法も採れます)

②売却により売却益が出てしまうような場合、個人の所得税がかかってしまう。

引継ぎ方法② - 現物出資

二つ目の方法は、出資財産として、現物出資する方法です。

通常、会社を設立する際には、株主となる人が会社に資本金として「現金」を払い込んで株式を得ますが、

何らかの資産すなわち「現物」を会社に引き渡すことで、株式を得る方法です。

会社は、引き受けた資産を資本金として処理します。

個人事業主側では、事業資産を譲渡した見返りとして株式を取得します。

メリット

資産譲渡の対価として株式を取得するので、資金の出入りがありません。

デメリット

現物出資をする場合、会社法上は、株式会社では、一定の場合を除き、検査役の調査が必要となります。(合同会社の場合は検査薬の調査は不要)
一定の場合とは具体的には
・現物出資が500万円以下の場合
・市場価格のある有価証券を当該市場価格以下で現物出資する場合の当該有価証券
・弁護士(又は弁護士法人)、公認会計士(又は監査法人)、税理士(又は税理士法人)から価額の相当性について証明を受けた場合(不動産については不動産鑑定評価も必要)
となり、会社の現物出資で検査役の検査が必要になると手間がかかり、時間と費用もかかります。

資本金が1000万円を超えると、①住民税均等割りが上がる、②設立初年度から消費税課税事業者になってしまう。といった更なるデメリットが出てきますので、留意しましょう。

合同会社を設立する場合や、現物出資価額が500万円以下の場合などは、現物出資も選択肢に入り得るといえます。

引継ぎ方法③ - 賃貸借処理

売却をせず、所有権を個人事業主に残したまま、賃貸借契約を締結し賃借料を支払う方法です。

メリット

法人側としては、売買処理と異なり、支払いが一定期間にわたって発生するため、資金繰りがしやすくなります。

個人としては、一括で譲渡所得が出るのではなく、分散して賃貸収入が生じますので、所得税が抑えられる可能性があります。

デメリット

後継者への事業承継のために法人成りするような場合、賃貸資産の所有権は個人に残存するため、その後賃貸借期間中に相続が発生した場合には、相続対象資産となり相続人に所有権が分散してしまう可能性があります。

個人の所得税の観点からは、事業をやめた後も賃貸借期間にわたり確定申告が必要となり、手間やコストがかかります。

各引継ぎ方法のメリット・デメリットまとめ

それぞれの引継ぎ方法のメリット・デメリットをまとめると以下のようになります。

引継ぎ方法売買処理現物出資賃貸借
簡便さ
時価で売買契約結ぶのみ
×
検査薬の調査が必要な場合は手間、コストがかかる 

時価で賃貸借契約を結ぶのみ
コスト
特段コストはかからない
×
検査薬の調査が必要な場合は手間、コストがかかる

特段コストはかからない
税金
個人の所得性(譲渡所得)がかかる  

個人の所得税(譲渡所得)がかかる

賃貸借収入となるため、金額によっては
税率が譲渡所得より低くなる。
資金繰り
売却時に支出が発生する

引継ぎにかかる資金は発生しない

長期的に支払う形となる
権利義務関係
法人に移管されるため売買後の問題はない

法人に移管されるため問題なし
×
個人に残留するため相続になった場合などは
使用できなくなるリスクがある。

総合すると、やはり売買処理をしてしまうのが最も簡便的でメリットが多いと考えられます。

勘定科目別の引継ぎ方法

引継ぎ方法は基本的に3つに分類されることがわかりました。では、具体的に各勘定科目ごとに、どのように承継したらよいか、見ていきましょう。

短期の資産・負債

まず、売掛金、買掛金、未払金など、個人で事業をしていた際の資産及び負債についてです。

例えば、法人成りする直前に販売した売上高にかかる未入金額や、同じく直前に購入した仕入・経費にかかる未払金額ですが、これらを法人に移管しようとすると、得意先、取引先への通知が必要となります。

そのため、法人に移管せずとも決済されて消滅していく資産負債は、そのまま個人として回収、支払するのがよいでしょう。

棚卸資産

製造業や小売業、建設業など、在庫を抱えている事業の場合です。

製造業や小売業は、個人事業主時代に在庫である分は個人事業主名義で売り切ってしまうか、売買処理により法人に移管するのがよいでしょう。

建設業のように、受注紐づきで抱えている在庫(未成工事支出金)は、案件自体を移管するかどうかによって判断することになると思います。(建設業の許可が法人に移管してしまうのであれば案件を個人に残すわけにはいかないなど許可の影響も受けます)

固定資産(機械装置、車両、工具備品など)

固定資産は、長期的に使用する資産であり、前述の売買処理、現物出資、賃貸借処理の3つの選択肢を、状況に応じて選択することになります。

前述の通り、売買処理が最も採りやすい方法であるため、これを最優先として検討しましょう。

現預金

個人事業主として蓄えた現預金は、開業にあたり必要な金額を資本金として出資します。資本金をいくらにするかの目安は、別記事にて詳解します。

借入金

個人事業主として個人で借りていた借入金は、法人成りを行う前から、銀行と相談して、設立会社で借り換えられないか、よく相談・検討しておく必要があります。

一つ目の方法は、会社が債務を引受する形になることです。これを免責的債務引受けといいます。事業主個人は連帯保証人になるのが一般的です。根抵当権に関しては債務者を個人から会社に切り替えることになります。

二つ目としては、個人事業として借りていた借入金を一旦返済し、新会社が新たに融資を受ける方法です。

融資元の金融機関との相談の上、方法を決定していきます。

最後に

法人成りは、経営者本人からすると、実態としては 従来の個人事業主の状態から何ら変わらないように思います。

しかし、税法や権利義務関係など、様々な論点を整理しておく必要があり、発生しなくて済んだはずの余計な支出や手間が生じる可能性があります。

個人事業が軌道に乗って法人設立を考えている場合には、ぜひ税理士などにご相談ください。